☆ 擬感覚戦闘

 女王である星璃逢と、覇主可が捕らえられた。
 このままなら、戦も終わったようなものだ。星璃逢たちの負けだ。

 沙流蘭姫は星璃逢の姉として、救出指令を出した。二人を取り返す。
 獅子桜院、詩嵐武、舞躍夏、芽凜愛、愛舞綺、映離射の六人が、夜が明ける前に城を出た。

 残りの兵だけでは、城を守れないだろう。敵軍はそう思っているはずだ。事実、覇主可が来る前、城は落ちかけていた。

 それでも、精鋭たちは城を出る。
 残された少女たちは、絶望してはいない。

 覇主可を助ける。
 そのことを思うと、少女たちの魂が震える。
 そのために城も守る。

 自分たちを守ってくれた少年の、大切なモノも護る。
 それは星璃逢でもあり、この小国そのもの、少女たち自身でもある。

「覇主可はここに居なくても、この国を護るんだな」
 愛舞綺のつぶやきに獅子桜院が応える。
「全く、ありがたい守護者だよ。みんな嬉しそうだ。負ける気がしないな」

「場所が解りました。待たせちゃ悪いわ、急ぎましょう」
 芽凜愛の占術はかなりの魔法力、体力を消費する。しかし疲れたようには見えない。

 隠密行動は諦め、ただ急いだ。

 覇主可と星璃逢は同じ場所に捕らわれているようだ。敵陣の本隊からはやや離れたキャンプだ。

「兵が少ないな。罠かな?」
「そうかもね。いや、そうだろうさ」
 詩嵐武の問いに答えたのは映離射だ。

 精鋭の闘士たちに一般の少女兵をぶつけても、損失が大きい。しかし、それは兵士が少ない理由ではないだろう。

 闘士たちの体力も限界がある。物量で押されればかなわないこともある。精鋭ゆえに、一人の損失でも大きい。兵士をつぎ込む価値はある。

 そんな戦争の論理とは別に、強い相手と闘いたいという思いがある。星璃逢と覇主可を連れ去った少女たちもそうだろう、と思う。だから衛兵も少ないのだろう。
 そして、理由はおそらくそれだけでもない。

「あの舞姫たちは妖術師だ。兵は不要か、邪魔なのだろう」
 妖術、と呼ばれるものは魔法とも区別されている。麻薬が毒や薬と分けられるように。

 厳密な区別は難しい。闘技も魔法も妖術も混じり合い、補い合っている。ひとつだけを修めるものでもない。
 それでも解る。あの少女たちは妖術師だ。

 キャンプの中心、大きな天幕に踏み込むと、覇主可と星璃逢、妖術の舞姫たちがいた。

 覇主可は目隠しをしていない。
 星璃逢はそのことについて仲間たちに警告したいが、愛紅璃の糸が行動を封じていた。

「星璃逢様と覇主可を返してもらう」
 獅子桜院がいきなり魅剣舞の構えをとった。相手は星璃逢と覇主可を入れても五人。十分に魅了する自信はあった。

 獅子桜院が舞い始めると、詩嵐武は長柄を星璃逢に伸ばす。槍にも鎌にもなる武器は伸縮もできるようだ。その上には舞躍夏がいる。

 覇主可が飛び、舞躍夏が弾かれた。詩嵐武は吹き飛んできた舞躍夏を受け止めた。動けなくなる快感の予感。
 舞躍夏の身体を通して快楽を打ち込まれるのは二度目だ。覇主可から離れていたので油断した。時間差で伝えることもできるらしい。

 覇主可が正確に動いた。獅子桜院の魅剣舞に囚われていない。

「目隠ししてないように見えたでしょ?」
 遙思は多流花、愛紅璃にも目隠しを巻いていた。覇主可の目隠しも外していない。魅剣舞は誰も見ていなかった。
 目隠しの上からさらに仮面を付け、本人そっくりの顔を描いてあった。いずれ見破られただろうが、効果は十分だった。

 多流花の使い魔が空中に吹き上がった。小さな少女たちが弾き合いながら、霧を撒いてゆく。
 遙思の目隠しをつけた者には、霧による視界不良は関係ない。視界は遙思が伝える。邪魔な魅剣舞などは見せない。

 獅子桜院は目を閉じた。兜に芽凜愛が魔法図を描いてくれた。それを通して占術による位置情報を受け取り、空間に想い描く。霧の中でそれぞれの位置が解った。 静かな剣舞を舞い始める。魅剣舞ではない。

 遙思には獅子桜院が動いていないように感じられたが、何かおかしい。

 獅子桜院のその舞いは、魅剣舞の裏技だ。注意力を惹きつける派手な動きではない。植物が育つような、悟れない動き。動きが見えない。

 愛紅璃が行動を操る糸片を飛ばす。獅子桜院に命中しない。動いているように見えないのに、位置が変わっている。

 いつの間にか遙思の前にいた。剣は上段。動きは見えず、切られてから解るのだろう。

 遙思が後退できたのは、剣が止まったからだ。立ちはだかった覇主可の指が剣先を捕らえていた。

「助かったわ」
 遙思は覇主可を盾にするつもりだった。星璃逢の幻を見て守ったはずだ。剣を捕えるとは思わなかった。

 実際は獅子桜院が動きを止めた。剣先は捕らえさせた。

 獅子桜院の腰に納められていた短剣が飛んだ。映離射の双剣の一つだ。遠隔操作される短剣は覇主可の頬を掠め、仮面と目隠しを切り落とした。

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