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☆ 陽兵陰忍

 覇主可の目隠しが外れた。

「放せ! 覇主可!」
 獅子桜院が叫んだのは、覇主可が剣を捕らえたまま放さないからだ。
 目隠しが外れれば、戻ると思っていた。幻を見せて操る技と見えた。

 覇主可の指先が伸びてきた。避けるために剣を放し、下がる。
 今、動けなくなる訳にはいかない。

「覇主可はもらっちゃった。あなたたちも、仲間にしてあげる。覇主可は殺さずに捕らえてくれるわ」
 遙思がそう言ったのは、精神を挫くためだろう。

 覇主可が遙思を振り返り、無事を安心したように微笑んだ。
 見覚えがある。星璃逢に向ける微笑みだ。
 目隠しが無くても、幻を見ているのだろうか。

 覇主可は幻を見てはいなかった。
 遙思という、目隠しを付けた少女をそのまま見て、護った。

 彼は愛する少女たちを護るために、ここに居る。
 それは誰だ?
 彼女たちだ。遙思、多流花、愛紅璃と言う少女たち。
 認識変換は完了していた。

 芽凜愛の占術が獅子桜院に危険を伝える。覇主可が本気で狙っている。
 獅子桜院は状況を漠然と理解した。
 感覚を操る技の使い手として、感じるものがあった。

 獅子桜院は魅剣舞を舞う。
 剣は覇主可に奪われたので、剣舞ではないはずだ。
 しかし、彼女の動きは剣を持っているように見えた。

 覇主可には美しく舞う少女しか見えなくなった。
 目隠しが外れ、魅剣舞を遮ることはできない。
 多流花の使い魔が集まり、霧を濃くしようとする。
 しかし、一度魅剣舞にかかった覇主可には霧も意識されない。

 遙思は愛舞綺と映離射を探した。
 どこかに隠れているはずだ。
 獅子桜院が覇主可に構っている間に探し出さねばならない。

 目隠しした少女の映像感覚は、通常の視界ではない。
 彼女の視点は自分の外にあり、自在に移動する。
 壊されることの無いリモートカメラだ。

 それでも、暗殺者姉妹の隠形術はやっかいだ。
 一度捉えれば、絶対に見失わないのだが……
 少なくとも一人は。

 映離射の双剣のひとつが戻って行った方向は覚えている。
 引き合う双剣の技は、戦場を観察していた時に見た。
 おそらく、この辺り……

 いきなり背後から、フェイスロックされた。
 覇主可にも気付かれなかった愛舞綺の隠形技だ。
 毒が染み込んでくる。

「愛紅璃!」
 遙思が呼んだ。
 彼女の身体には、愛紅璃の糸が巻き付いていた。
 それが愛舞綺に巻き付き、動きを操ろうとする。

 愛舞綺は離れない。糸は死んでいた。
 毒に耐えられなかったのだ。やはり生き物なのだろう。

「覇主可を返してもらう」
 愛舞綺が致命の毒を注がないのは覇主可との誓いだ。
 しかし、もう遙思は動けないはずだ。

「無駄よ。彼はもう、あなたたちを愛してないわ。私たちに変換させてもらったわ」
「解ってないな。覇主可が愛さない相手なんていない。それが問題なんだ……ああ、お前は愛されてないかもな。ちゃんとぶつかったか?」

 愛舞綺は遙思から離れ、覇主可に向かう。
 多流花の使い魔、愛紅璃の糸、どちらも愛舞綺を止められない。

 魅剣舞にかかっている少年を抱きしめるのは簡単だった。
「覇主可、また、本気で堕としてくれるのかな……愉しみだ」