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☆ 見知らぬ朝を夢見る夜

 覇主可は火璃奈を倒した。火璃奈の軍は降伏した。星璃逢の国を攻めていた軍は降伏した。戦争は終わった。とりあえずは。
 覇主可は愛人を増やした。大量に増やした。星璃逢の国の民、火璃奈が従えていた兵士たち、みんな女だ。護られた者たち、打ち破られた者たち、どちらも彼を拒む者はいない。

 この世界には未だ、覇主可以外の男性は見つからない。女ばかりだ。それも、美しい少女ばかりだ。
 夢使いの火璃奈が、覇主可のために造った世界。それなら納得もできる。でも、そうでもないらしい。
「この世界は私の世界じゃないわ。私はこの世界の神様じゃない。当たり前よね」
「でも火璃奈、男性が居ない世界なんておかしい。キミがそうしたからじゃないの?」
「そうね、この世界の男性は、みんな私が集めて閉じ込めた、そんな夢も見せたわ。でも、それは幻、もともと居なかったのよ」
「何で居なかったの?」
「知らないわ。そういう世界を選んだだけ。覇主可、あなたを誘うためにね」
「そうか、夢界転生って、そういう技なのか。異世界へ行く技なのか」

「僕もたぶん、その技でこの世界に来た。僕には使えない技だ。燐さんに送ってもらった。だから、帰ることは無いと思ってた」
「私は夢界転生を使えるわよ。覇主可、帰りたい?」
「いや。この世界には星璃逢様が居る。僕の御主人様が居る」
「星璃空と一緒に行くこともできるわ。一緒に帰ることもできるわ」

「覇主可、帰りたい?」
 星璃空が訊く。
「いいえ。元の世界で、僕はずっと待っていました。星璃逢様を、僕の御主人様を待っていました」
「でも、闘いは終わったわ。あなたは、闘いたいから私の所に来てくれたんじゃないの? あ、でも、そうか、あなたの居た世界では闘えなかったのよね。戻りたいとは想わないわよね」

「闘いは続きます。この世界で続きます」
 覇主可の感覚は遠い軍勢の気配を捉えている。戦争の気配。
「攻めて来るぞ。覇主可を欲しがるのは火璃奈だけじゃない。当然だな」
 獅子桜院は戦支度を済ませている。いつものことではある。彼女は騎士団長だ。
「まだ、遠いですね。でも、占うまでもなく解ります。攻めて来ますよ」
 芽凜愛も、いや、闘士たちは皆、戦の気配を感じている。

「結局、火璃奈さんの言った通りじゃない。覇主可、あなたは、この世界で闘い続けて、女の子を堕とし続けるのね」
「そうかもしれません。でも、星璃空様、あなたが止めろと命じるなら、止めます」
「止めないわ。止められないわよ。覇主可を奪いに来るんだから」
「この世界から出てしまえば、止められるかもしれません」
 星璃空の脳裏に、彼と二人で異世界を旅する自分の姿が浮かんだ。惹かれる。

 でも、それも解決にはならないだろう。どんな異世界に行っても、同じことになるだろう。覇主可はあの笑顔で、多くの女を魅了するだろう。そんな彼に自分も惹かれている。そして、彼の主人は自分なのだ。少なくとも、この世界では。

「まだ、時間はあるかしら? 闘いはすぐに来る?」
「二三日の時間はあるでしょう。もっとお望みなら、足止めしておきますよ」
 遙思が応えた。彼女の特別な視界は、上空から遠くの敵軍を観ている。

「じゃあ、二三日は愉しめるわね」
「そうだな、星璃空、覇主可を一人占めか? お前が望むなら、止められないが」
 愛舞綺が星璃空を背中から抱きしめる。
「覇主可を一人占めなんて、できないわ。私でもね。でも、もっともっとエッチにも強くしてもらうわ。一人で覇主可を受け止められるくらい。でも」

「それでも、一人占めはしないわ。私は女王よ。ねえ、覇主可、みんなを満足させてね。抱師のお仕事、できるでしょ?」
「はい、星璃空様!」
 覇主可は星璃空と愛舞綺に肉棒を差し出す。二人が並んで吸い付いた。愛舞綺が他の少女と触れ合う、覇主可が夢見たこと。
 覇主可は二人の頭を撫で、快感を送る。唇が舌が絶頂できるようにする。射精は半分ずつ。二人は精液を口内に溜めたままキスする。奪い合い、与え合う。

「覇主可、私も欲しい」
「星璃空様の命令だぞ、皆、満足させてくれるのだろう?」
「待つけど、待てないよ、早く……」
 舞躍夏、獅子桜院、詩嵐武がお尻を列べておねだりする。でも今、覇主可は星璃空と愛舞綺のオマ×コを交互に突いている。

「覇主可、これからどうするの? 闘うのは解るわ。何を目指すの?」
 火璃奈が問う。
「この世界、男性が居ない理由を知りたいな。僕に都合が良い世界、闘えて、綺麗な女の子しか居ない世界、不思議だ」
「理由を調べて、世界を変えるの?」
「どうかな。世界を変えるなんて、何か嫌だけど。でも、変えてしまうかもしれない。どちらでも良い。そんなことは目標にならないよ」
「闘う。癒す。星璃逢様を護る。その先は、この世界をもっと知ってからだ」

「僕だって、いつか負けるかもしれない。男性だから、抱師だから勝てる、そんなはずもない。男性だから、抱師だから望まれる、挑まれる、それはあるだろう。闘いは続くだろう」
「僕を望む娘が、どんな技で、どんな策で挑んでくるのか、解らない。油断はできない。僕も技を磨かなきゃ」
 覇主可の動きが勢いを増す。もう星璃逢と愛舞綺から離れ、獅子桜院たちに移っている。星璃逢と愛舞綺は満足した表情で微睡んでいる。

「そうね。手伝うわ。もうすぐ夜ね」
 火璃奈も覇主可を待つ。夜は長いだろうか? そうでもないかもしれない。皆、覇主可に愛され、心地良く休むだろう。それが抱師の役目だ。
 覇主可も眠るだろう。癒し癒され、心地良く眠るだろう。束の間の休息。
 彼の夢に割り込むのは、今夜は止めておこう。一緒に眠ろう。次の朝を待ちながら。

完結 ありがとうございました

この物語をKindle電子書籍化しています。
2巻には書き下ろし後日譚も入っています。

☆ 幻の砂漠で

 遙思の衣装が翻り、覇主可の視界を覆った。覇主可はとっさに下がろうとはした。遙思の布に包まれるのはまずい。しかし布が予想外に広がる。避けきれない。

 覇主可の周囲に広い砂漠が広がった。誰も居ない。これは遙思が見せる幻覚だろう。
 布に包まれた? そうなのだろう。でも、そのことが認識できない。覆われても包まれてもいないとしか思えない。
 覇主可は手を伸ばし、周囲を探る。何にも触れない。遙思は自分から離れたのだろうか?

「覇主可」
 遙思の声。何処からか響く。
「そのまま、その砂漠で渇いて死ぬ? それとも、負けを認めて私たちに従う?」
「この砂漠、抜けられない自身があるの? あるのだろうな。愛舞綺はもう倒した? 獅子桜院や舞躍夏、詩嵐武はそろそろ動けるようになるだろう。急がないの?」
「急ぐわ。急いでるわ。でも、そこに居るあなたとはゆっくり話もできるわ。あなたはもう、そこから逃げられないもの」
「こんな広い場所、拘束もされてないのに、逃げられないのか。そうだろうな。どんなに走っても、この砂漠は抜けられないのだろう。キミが造る幻覚の世界だものね」

「凄いな。凄い技だ。世界を造ってみせるなんて、凄い。火璃奈みたいだ」
「覇主可、あなた、火璃奈様に勝ったことがあるのよね。どうやったの? 火璃奈様があなたに負けるなんて思えない」
「昔のことさ。修業時代のことだ。僕も火璃奈も未熟だった。でも、その時のことは覚えてない。忘れようとした記憶だ」
「勝利の記憶を忘れようとしたの? おかしいわね」

「勝利の記憶か。そうだったのかな。そうだったんだろうな。でも、そうじゃなかったのかも。僕は抱師なのに、火璃奈を魅了できなかった。それが悔しかったのだろう。だから、忘れた」
「悔しい記憶を忘れられるの? それも凄いわね。普通は忘れられないのに」
「そうだ、そうだね。何で僕は忘れることができたんだろう?」
「火璃奈様に忘れさせてもらったんじゃない? 火璃奈様が負けたなら、あなたの望みに従ったでしょうから」
「そうだ、それはありそうなことだね。でも、僕が望んだのかな? 火璃奈のことを忘れること、僕が望んだのかな? 未熟だった、それは仕方ない。誰だってそこから始まる。失敗もあるだろう、当然だ。そんなあたりまえのこと、忘れたかったのかな?」
「忘れたいわよ。誰だって、未熟だった自分のことなんて忘れたいわよ。嫌な失敗をしたのなら、なおさらよ」
「嫌な失敗だったのかな。うん、失敗は嫌なものだ。でも仕方ないのに。失敗するかもしれない、それでもやらなきゃ、できるようにならないのに」
「あなたはできるようになったのでしょう? そのことを忘れさせてくれた、火璃奈様のおかげかもよ」

 覇主可は空を見上げる。空は広い。広い砂漠には何もない。地平線いっぱいに広がる空。
「遙思、キミが造る空も綺麗だね。この景色は覚えていられるのかな」
「さあね。そんなの、あなたしだいよ。覚えているかどうかなんて、その人のことよ」

「さあ覇主可、答えて。私たちに従う? いえ、私に従う? あなたが従ってくれるなら、その砂漠から出してあげる。拒むなら、そのまま渇いて死ぬわよ」
「このまま渇いてしまいたくはない。でも、この広い空も名残惜しいな。遙思、こんな綺麗な場所、一緒に来てくれれば良かったのに」
「まだ一緒には行けないわよ。あなた、私を倒そうとするでしょう?」

「ねえ、遙思、従うと言えば解放してくれるの? その言葉をどうして信じられるの? 僕は嘘をつくかもしれないよ」
「そうね。覇主可、あなた、まだ諦めてないものね。負けたと思ってない。しばらく渇いてみないと解らないわよね」
「渇かせるのか。そうだね、この砂漠、水は無いのだろう。すぐに渇いて、欲しくなるよね。渇いて、欲しくなって、キミにお願いするようになるよね。良く知ってる。僕もよくやる、非道いやり方だ」

「ねえ、遙思、キミに勝ち目は無いよ。僕が欲しくなってない? キミは僕に従えと言ってる。僕の精神を変えようともしてない、このままの僕が欲しくなってる。だから受け入れるよ。抱いてあげる、抱かれてあげる。僕の精液、飲ませてあげる。身体を傷を癒やすだけじゃない、凄く美味しくて、気持ち良いよ。知ってるよね」

「でもまだ、味わったことはないかな。味わったことがあるなら、もう僕の虜になってるよね。キミの仲間、兵士たちにもたくさん飲ませた。みんな気持ち良さそうだったよね。最高の美味、快感、キミは手に入れることができるのに、まだ我慢するの? 強いな。さすがだ」

「ねえ、この砂漠、ここに来てくれれば、僕を独り占めできるよ。僕はキミを堕とすために、最高の快楽の技でがんばるよ。キミが造った幻の世界、その中でも、僕を楽しむ自信は無い?」

 世界が揺らいだ。いつの間にか日が沈み、夜空が広がっている。星空。
 いつの間にか、目隠しを着けた舞姫が覇主可を抱きしめている。
「遙思、やっと捕まえた」
「覇主可、来たわよ。この世界にはあなたと私、二人だけ。もうこの世界から出さないわよ。あなたは私のモノ」

☆ 優柔惑迷

「あっ、ああんっ!」
 少女たちが嬌声をあげた。覇主可から熱い何かが吹き付けてくる。それは身体と精神に染み込み、欲情を燃やす。
 彼が欲しい。でも、勝手に押し倒すこともできない。火璃奈の許可は出ていない。
「んー、覇主可、どうしたの? 女の子を発情させて、どうするの?」
 火璃奈は火照ってはいる。しかし、他の少女たちのように悶えてはいない。彼女も抱師だったらしいから、覇主可の気に耐えられるのも解る。
 覇主可と火璃奈、二人の抱師が抱き合い始めたら、どうなるのだろう? 周りに居る者は狂ってしまうのではないか。

「火璃奈様は僕が欲しくないのですか? 僕は火璃奈様が欲しいです。ご奉仕して良いのですか?」
「んふっ。ご奉仕してくれるの? したいの? そう、抱師はそうよね。主人に仕える存在。私も、あなたにご奉仕したいわ」
 火璃奈は覇主可のアンダーを脱がせ、勃起に触れた。優しく撫で回す。覇主可は射精しそうになるが耐える。まだ表情には出さずに耐えられた。
「さすがね、覇主可」
 火璃奈の指先も、覇主可のように触れるだけで相手を落とせるのだろう。快楽の技の使い手が二人。どちらが強いのだろうか?
 しかし、どちらが強いとしても、勝敗は決まっている。覇主可は火璃奈に従う。

「ああ、覇主可のオチン×ン。凄く久しぶり。昔、生き返らせてくれて、ありがとうね」
「間に合っただけです。傷を癒しただけです」
「そうね。あの時は、間に合ったのよね。覇主可、今回は間に合ったと思う? 手遅れかもよ」
「何が手遅れなんですか?」
「あなた、遙思の術にかかったでしょう。手遅れかもよ」
 手遅れ? 何が? 星璃逢の国を護れなかったことか?
 それは確かにそうだ。でも、悔やんでも仕方ない。護れるはずもなかった。この世界は火璃奈の夢の中らしい。世界を統べる彼女の軍勢に勝てるはずもなかった。

 しかし、闘いはそこまで絶望的ではなかった。敵も味方も少女たちだ、覇主可なら十分に勝算はあったはずだ。敵はみんな快楽で落とし、味方はみんな癒し、護ることができたはずだ。
 何故、敗れた? 遙思のせいだ。あの妖術の舞姫たちのせいだ。非道の技で競い、敗れた。
 非道の技? それは何だ? 妖術。心を惑わす技。
 遙思の目隠しの技は、現実に幻覚を混ぜ、認識を作り替えることができる。神経系に作用して操る愛紅璃の糸、霧を撒き視界を遮り、針の刺激で操る多流花の使い魔がサポートする。しかし、精神に作用するのは遙思の目隠しの術だ。

 いや、微妙に違う。精神に作用するのは欺瞞の技だ。自在に幻を見せられたとしても、何を見せるかが問題だ。
 惑わし迷わせ、信じさせる。それが彼女たちの妖術の本体だ。心理術だ。
 心理術の闘いに敗れた? そうなのかもしれない。それはあらゆる闘いで重要な要素だ。虚実の妙。それを卑怯と呼ぶのは違う。戦いはもともと騙し合いだ。

 覇主可の快楽の技は少女たちを魅了し、従ってもらうことができる。彼と抱き合う可能性を夢見させる代わりに、仲間を捨てさせる。それも非道の技だろう。
 戦いに破れるなら、命を、全てを失うかもしれない。闘士ならそれは覚悟するだろう。しかし、敵に寝返り、かつての仲間と闘うこと、それは多くの闘士が避けようとするだろう。
 でも、何故それを避ける? 闘いを求めるなら、それでも良いのではないか?
 卑怯だから? そうだ、仲間が後ろから刺してくるとしたら困る。でも、そうではない。敵になったことは伝える。正面から闘う。
 でも卑怯だ。覇主可に敗れ、彼のために闘い、そして愛される。そんな仲間を許せるわけがない。
 闘いは終わらない。覇主可が全ての少女たちと闘い、勝利するまで、この世界の闘いは終わらないのかもしれない。いつまで続く? 永遠に?
 永遠に闘いと快楽を楽しめるのか? 闘いを楽しむ抱師、覇主可のために用意された世界。多くの少女と闘い、従わせ、愛する。彼に都合の良すぎる世界。

「火璃奈、この世界は、キミが僕のために造ってくれたの?」
「そうかもね。もう忘れたわ。そうだったとしても、もう、違っているでしょうけど」
「何かおかしいけど、受け入れないのもおかしい。こんな、僕に都合の良い世界、受け入れないのはおかしい。確かに楽しかった。闘いも、エッチも……」
 しかし覇主可の心は晴れない。何かおかしい。
 星璃逢の笑顔を思い出す。最初この世界に来た時、彼女に笑顔は無かった。星璃逢は憂う表情だった。それを笑顔にできたのは、自分が闘い、彼女とその国を護ったからだ。
 星璃逢を護る。愛する少女たちを護る。そう決意した。でも、護れなかった。いや、そうなのか? 愛人たちは誰も死んでもいない。護ったのではないか?
 火璃奈を、遙思を、愛紅璃を多流花を愛したら、彼女たちも護れるのだろうか。これからも戦いは続くらしい。護れるかもしれない。
 護れる? 何から? 闘う理由は?
 何から護る? 自分から?

 星璃逢の笑顔は安心していた。自分が、覇主可が居れば大丈夫だと安心していた。その前、負けそうな戦いの中で覚悟していた、その強さを失っていた。
「抱師は御主人様を支配してはいけないのに。僕は星璃逢様を惑わせた。僕が居なきゃダメだと思わせた」
「そうよ。もう手遅れよ」

☆ 惑迷敗想

 映離射の技が遙思を捉えた。その瞬間、妖術の舞姫たちの技が乱れた。巨兵陣の後始末をしていた覇主可にはそれが解った。少女兵たちに着けられていた目隠し、糸、使い魔、全ての作用が止まり、乱れた。

 覇主可は愛舞綺を探した。愛舞綺の熱を探した。覇主可は愛人たちの熱を感じ、霧の中でも探すことができた。
 愛舞綺を見つけた。愛舞綺は遙思の目隠しを着けられていた。でも、操られて襲ってはこなかった。その目隠しを簡単に外すことができた。
 おそらく遙思に何か起こったのだろう。今なら妖術の舞姫たちを捕らえられるかもしれない。
「愛舞綺、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。妖術師に何かあったな。映離射の技が決まったのかもしれない。急げ、妹の技ならすぐ死ぬぞ」
 急げば間に合うかもしれない。覇主可が間に合うなら、死にかけた少女を蘇生し、魅了することができる。

 霧が晴れてきた。仲間たちを確認できる。妖術の舞姫たちは? 近くに愛紅璃と多流花を見つけた。二人とも立ち尽くしたまま動かない。
 離れた場所に遙思が倒れている。その身体に数本の短剣が刺さっている。
 覇主可は遙思に駆け寄る。抱き起こし唇を奪う。まだ冷めきってはいない、間に合いそうだ。快楽のパワーでその身体を緩め、交合する。
 蘇生交合。覇主可の再生の精液が遙思の体内に迸る。快楽のパワーが血流を回し、薬効を運ぶ。短剣を抜く。その傷も塞がってゆく。

 愛舞綺は多流花と愛紅璃の方に向かう。二人の妖術師も遙思の認識変換の技を受け、操られていたのかもしれない。遙思が倒され、技の効果が途切れたのかもしれない。だから動かないのかもしれない。
 かもしれない、そればかりだ。そうだ、不確定要素が多すぎる。まだ危険かもしれない。しかし、今がチャンスかもしれない。麻痺毒を注いでおけば良い。動けないようにすれば良い。不確定要素を確定すれば良い。

「愛舞綺、どうしたの?」
 覇主可の声。あれ? 何故、覇主可? 多流花と愛紅璃の方に向かったはずだ。おかしい、行動を操られた? 目隠しは外してもらった、糸に絡まれてもいない、使い魔に取り付かれてもいない。妖術の舞姫たちの技にかかってはいないはずだ。何故、覇主可の傍に来た?
「覇主可、その女も抱くのだな。死にかけた女の味はどうだ? アソコの締まりが良くなったりするのか?」
 自分は何を言っている?
「愛舞綺!」
 覇主可の指先が伸びてきた。そうだ、操られているかもしれない自分を止めるため、触れようとするだろう。
 しっかり受け止める。その手を取り、優しく握りしめる。動きを封じる快楽のパワーが伝わって来る。でも弱い。遙思を生き返らせるために多くのパワーを使っているからだろう。
「そんなことでは私は止められないぞ。星璃逢姫ほどではないが、私もお前にたくさん抱かれた。お前の快楽の技にも、少しは耐性ができているだろう」
 そうだ、そのために覇主可に近付いた。毒の身体を持つ自分を覇主可は特別に意識した。癒しの精を持つ彼にしか抱けない身体。

 遙思が覇主可を抱きしめた。蘇生したのだろう。覇主可はまだ遙思と交合し、その体内に回復の精液を注いでいる。
「んっ……ふー、生き返るわ。んふ、覇主可、やっと抱いてくれたね。ねえ覇主可、愛舞綺が心配? 私を堕とせば、助けられるかもよ? あん、ん、ああっ、ねえ、もっと、いっぱい、注いで」
 遙思の身体に潜んでいた糸が覇主可に巻き付く。遙思が覇主可の唇を奪う。遙思に巻かれている目隠しが外れ、覇主可に巻き付く。遙思の目隠しもまだある、何重にも巻いているのだろう。

「私はどうすれば良い?」
 愛舞綺が遙思に訊く。
「星璃逢姫を連れて来て。獅子桜院や舞躍夏、詩嵐武、闘士たちを捕らえても良いわ。愛舞綺、あなたならできるでしょ? 覇主可の愛人たちは必要よ。みんなこちら側に引き込めば、覇主可もこちら側に来るわ」
「戦いは終わりか?」
「そうねえ、終わりかもね。そろそろ終わるわ。次のゲームはいつかしらね。私たちも参加できたら良いわね。そのために、がんばりましょ」
「つまらないゲームだったな。必ず勝てる戦いだった」
「私は面白かったわ。勝てるから戦うのよ。勝つから、次も遊ぶ権利が得られるのよ。覇主可には、あなたや星璃逢姫、愛人たちが合うわ。一緒に届けるわ」

「届けるのか。誰にだ? 覇主可の心に住んでいたあいつか?」
「あら、会ったの?」
「抱師と言う異世界の性愛師のことを、何故この世界で知ることができたか。あいつがお前たちを操っていたなら、理解できる。あいつがどうしてこの世界に来たのか、それは解らないけどな」
「知らない方が良いわよ。くだらないことよ」

「この世界では、覇主可以外の男性を見ないよな。お前たちがそうしたのかと思ったが、もしかして、もともと居なかったのか?」
「そうかもね。でも、考えても仕方ないわよ。この世界が彼のために用意された、そうだとしても、私たちには関係ないわ。楽しく生きるだけ」

「お前に訊いても仕方ないことだったな。あいつは何処に居る?」
 遙思は笑った。目隠しした少女が笑う。
「ねえ、愛舞綺、あなたもともと、こっち側の暗殺者だったわよね? こっち側の軍のこと、星璃逢姫たちに訊かれなかった? 謎の軍隊の一員として、疑問に思わなかった? あなた、自分を傭兵だと思ってたのでしょうね。だから詳しく知らないと思ってたのでしょう。でも傭兵でも、何も知らないのはおかしくない?」

「私は認識変換を受けていたから、疑問に思うことも無かったのだろう」
「以前、覇主可にかけた認識変換は、あなたの存在で破られたわ。この術は絶対じゃないのよ、破れることもあるの。あなたにかけた術も破れそうだと思わない? 覇主可なら、彼の快楽と癒しの精液なら、認識変換の術も破れそうじゃない?」
「私は認識変換を受けていた、今、その確信がある。それが解ると言うことは、その技はもう解けているのか? 何故、私は今、お前を止めない? 覇主可に従い、彼と星璃逢姫たちを護る、そう誓ったはずだ。何故……」
 愛舞綺の心に疑念が巻き起こる。自分は誰だ? 毒の身体を持つ暗殺者。覇主可の心を奪える可能性を持つ女。いや、覇主可の相手は星璃逢だ。自分は彼が求めたとしても、二番目で良い。彼が求める? 覇主可の一番になれる可能性がある?
 何故迷う? いまさら迷う? 何故、覇主可を奪われようとしているこの時に……
「あやあっ!」
 雷声とともに愛舞綺の毒手が空を薙いだ。
 そこに居たはずの遙思と覇主可の姿が消えている。そうだろう、覇主可は糸と目隠しを巻かれていた。操られ、蘇生した遙思と共に消えるだろう。

「一度目隠しを巻かれたからな。術にかけられたか。短時間で破ったが、致命的だったな」
 遙思が思わせぶりな会話をしたのは、愛舞綺を迷わせ、回復の時間を稼ぐためだろう。

「愛舞綺!」「姉さん!」
 芽凜愛と映離射が来た。妖術の舞姫たちの姿は無い。多流花、愛紅璃の姿も消えている。遙思が復活し、彼女たちも動き出したのだろう。
「済まない、覇主可が捕らえられた」
「ええ、でも、これ……」
 黒い霧が完全に晴れた。この場所は敵軍の兵士に囲まれていた。多数の弓に狙われている。

「負けたな。やられるな。でも、覇主可が蘇生回復してくれるだろう。アレは凄いぞ、楽しみにしていて良い」
 詩嵐武、舞躍夏、星璃逢、獅子桜院の姿も見える。皆、虚脱したように動かない。覇主可の気配が無い、奪われたことが解る。
 覇主可を助けるために何ができるだろう? ここではまだ、殺されない気がする。覇主可への人質として、いや、覇主可という性愛師の道具、ペットとして捕らえられる気がする。
 殺されないなら、覇主可を助けるチャンスもあるかもしれない。いや、心を操られたらやはりチャンスは無いか? でも、死んだら本当にチャンスは無い。心は戻るかもしれない。覇主可は一度戻った。
 迷う少女たちに、矢の雨が降り注いだ。

☆ 流星影縫

 遙思が愛舞綺に目隠しを着けた。もう愛舞綺には外せない、術中に捉えた。
 このまま愛舞綺を連れて退却しよう。覇主可を捕らえることは今は諦めよう、十分な成果だ。
 遙思は自在の視界で周囲を確認する。多流花の使い魔が黒い霧を撒いている。この霧の中で見えるのは遙思だけだ。芽凜愛の占術も相手の位置が解るだけだ、実際に見える遙思が圧倒的に有利だ。

 覇主可は巨兵陣を破った。しかし後始末に追われている。糸に絡まれた獅子桜院を助け、巨兵陣を構成していた少女兵たちをなだめている。
 詩嵐武は舞躍夏と星璃逢をまとめて捕らえ、護っている。舞躍夏に着けた目隠しは星璃逢に外された。しかし舞躍夏の身体に潜んだ糸はまだある。愛紅璃の糸を外すことは難しく、時間もかかる。

 残る相手は映離射だけ。遙思は映離射の姿を捉えていない。それが気になる。自在の視界は映離射以外の全員を捉えているのに。映離射の隠形術を破れない。映離射が動いていないから見破れないのだろう、でもこのまま動かないとは思えない。
 隠形術の使い手の一人、愛舞綺は捕らえた。もしかしたらそれは陽動だったのだろうか? 映離射は何処に?

 戦局は転換点を迎えている。舞躍夏は制され、巨兵陣は破れた。今回は遙思たちが負けた。そう思わせ、愛舞綺を捕らえた。
 何か違和感がある。覇主可が愛舞綺を呼ばない、まだ呼んでいない。何故だろう? 舞躍夏と獅子桜院から糸を外すために愛舞綺を呼ぶはずだ。覇主可の回復の精液と愛舞綺の毒を合わせて、身体に潜む糸を殺すために。いや、そのためには時間と手間がかかる。今そうしなくても不思議ではない。でも、では覇主可はどうするのか? そして映離射は?

 短剣が飛んできた。黒い霧の中でも遙思には見える。見えたから避ける。短剣が反転し、再び向かって来る。やはり映離射の引き合う双剣の一つのようだ。背後で反転したがその軌道も見える、自在の視界に死角は無い。
 しかし見えても避けられるかどうか。それは別のことだ。避けられない場合もある。飛翔する短剣より速く動けないなら、避けられない。
 でも、捕らえた。短剣の柄を手で捕らえた。その短剣はまだ動こうとしている。強く握りしめ、押さえる。

 第二の短剣が飛んで来た。引き合う双剣は二本ある、しかし一つは術者が持つはずだ。いや、本当に二本だけなのか? もっと多い可能性はある。何本ある?
 遙思が第二の短剣を避ける。捕らえ握りしめた最初の短剣が引き寄せているのかもしれない。でもこれを放せば、二本の短剣に同時に襲われるかもしれない。そうなれば避けきれないだろう。
 映離射の短剣はそれほど速くない。落ちないのが不思議だ。飛行しているのだろう、魔法を使っているのかもしれない。
 飛行する短剣の動きを封じるには? 遙思は握りしめた短剣を地面に突き立てる。柄尻を踏み、深く押し込む。その間に二本目の短剣が遙思の背に刺さったように見える。血が流れる。
「残念でした」
 短剣が刺さったのは遙思ではなかった。多流花の使い魔、人形のような小さな少女が身代わりになった。

 遙思は二本目の短剣も地面に突き立てようと思う。握る。その瞬間、天から流星のように高速の短剣が落ちてきた。その剣は遙思の足甲を大地に縫い付けた。
 遙思は地面に突き立てた短剣の上に居る。足を縫われ、移動できない。天から短剣が降って来る。自在の視界が捉えている。映離射の引き合う剣は何本もあったらしい。
 自在の視界が切り替わる。黒い霧の外、やや遠くに映離射と芽凜愛を見つけた。映離射は短剣を投げ上げている。それらは遙思の足元にある大地に刺さった剣を目指し、重力で加速されて落ちて来るのだろう。
 芽凜愛の占術が遙思の位置を教えたのだろう。短剣を握りしめた時、映離射にもはっきり位置を知られたのだろう。
 流星のように降る短剣が遙思の身体を貫いた。

「やった?」
 黒い霧の外。芽凜愛が映離射に訊く。
「手応えは有りだ。でも、どうかな。相手は妖術師だ。代わり身かも」
「そうね、でもとにかく、倒すしかないわ。あの遙思と言う妖術師は危険だわ。私も操られてた」
 芽凜愛は遙思に認識変換の術を受けていた。そして星璃逢に異世界の闘士を召喚することを進言した。異世界の商人へ呼びかけ、覇主可を売ってもらうことができた。
 覇主可に何度も抱かれ、回復の精液を飲む中で、認識変換の術が解けた。術が解けたと同時に、異世界への扉を開く魔法も記憶から消えた。しかし、それが仕組まれたことだったことを知った。

 敵は覇主可を得るために攻めてきた。しかし覇主可を渡せば戦いが終わるわけでもない。戦いの楽しみのため、それも確かにあるのだ。
 あの妖術師たちの背後に誰か居る。覇主可を、抱師を求めた者。芽凜愛を、そして星璃逢を利用しなければ抱師を得られなかった者が居る。

 少し感謝の気持ちもある。覇主可に会えた。抱師に抱かれることができた。最高の快楽を体験できた。彼を求める気持ちは良く解る。
 でも赦さない。覇主可を喚ばせて、会わせておいて奪おうとするなんて。赦さない。
 戦いたいなら受けて立つ。この赦さない気持ちも戦いのために誘導されたのだろう。でも、妖術師を相手に迷っても無駄だ。受けて立つ。