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☆ 空に咲く森

 咲いた花々の中から、小さな少年たちが出てくる。緑の髪の少年たち。何時季に似ている。
「へえ、砂花菜さんの娘たちみたいだな。僕の子?」
「あなたしか居ないじゃない」
「そうだよね。僕の細胞を使ったのか」

「僕も最初はこんな感じだったのかもな。一人きりで目覚めたけど」
「何時季さん、森にならずに、地上に栄養を増やしたかったのでしょう? この子たちの助けを借りればできるかもよ」
「あなたの子供たちも、あなたと同じように、栄養たっぷりの果汁精液を出せるかも。光と水だけで」
「栄養? そうだ、僕が地上に緑を増やしたかったのはそういうことだ。栄養が見つからない世界で、生き残ってる人に栄養をあげたかった」

「違うわ、何時季さん、たぶん、違う……」
 晴香が戸惑いながら、這い寄って来る小さな少年たちを空中に浮かべた。こうしてしまえば、これ以上近付かれることは無い。何だか怖い。

「そうよ、練佳が言ってたでしょ? 栄養だけじゃ足りない、愛が必要だって」
 帆夏が刃と化した金髪を振るう。緑の檻を切り開き、その髪で何時季を捕らえる。
「晴香、咲生逢、晶華の所へ帰ろう」
 もう遅いような気もする。手遅れのような気分。何時季の細胞は奪われ、小さな少年たちが現れた。
 あの小さな少年たちは何時季と同じ能力を持っているのだろうか? それは何時季が望んだかもしれないことだ。そしてできなかったことだ。緑を、栄養を増やすこと。
 帆夏は何時季の子を産むことはできないだろう。違う生き物だ。でもこの花たちは、何時季の子を産むことができた。同じような植物的な身体だから。

(違うわ。この花たちは、何時季と受精したのではないみたいよ。帆夏、何時季を助けてくれてありがとう。合流しましょう)
 帆夏の精神に晶華の声が響いた。晴香にも聞こえている。晴香が皆を飛ばせる。扉を抜ける。

(晶華、何か解った?)
(ええ。此処の花たちは何時季を危険だと思ってるわ。仲間と思ってないわ)
(じゃあ、どうする? 倒す?)
(少し待って。植物たちが持っている情報、解ってきたわ)
(植物の精神、探るのは大変だったよ。待たせてごめんね)
 柳裸の声もする。仲間たち全員の精神がつながる。

(生き残ってる植物は、この空中庭園の花たちだけじゃないみたい。海にも地上にも、まだ生き残ってる植物が居るみたい。多くもないらしいけど。ここの花たちは、それらの生き残った植物と精神をつないで会話してるらしいわ)
(植物の会話か。つまらなそう。でも、何時季は他の植物と話したりしてなかったよね?)
(ええ。他の植物たちは、何時季のことを警戒してるわ。植物にも争いはあるのよ。何時季の光合成能力は凄いわ。森になれば、どんどん成長して、この星に満ちるかも)
(彼はそうしないわ。まあでも、他の植物たちは警戒するわよね)
(ええ、そして此処の花たちは、何時季を警戒してるけど、排除したくもないのよ。彼の能力なら、この星をまた緑の星にできるかもしれない。植物が支配する星にできるかもしれない。警戒しながら、夢も見てるのよ)
(何時季の細胞を奪われて、小さい男の子たちが現れたわ。晴香が捕らえてるけど、アレはどうしたら良い?)
(そのまま捕らえて連れて来て。もうこっちに着くわね)
 空の下の庭園に着いた。夜の気配が近付き、陽光は優しくなっている。

「何時季!」
 晶華が呼びかける。
「えっ? あ、晶華……」
「浮気者」
「あ、ごめん……」
「謝らなくても良いんだけど。でも、子供まで造られたら、ちょっと怒っても良いのかな」
「あ、ん、でも、晶華たちと同じだ、強制はされてない、誘惑された……あ、そうだ、だから、浮気だ。僕のせいだ」
「何時季が我慢できるわけないけどね。でもねえ、何時季、少しオシオキしたいんだけど。良いかしら?」
「うん、オシオキして。まだオチン×ンが収まらない」
 柳裸と空流が何時季に抱きつき、脚を開かせる。晴香と帆夏が股間に吸い付く。

「あの小さな男の子たちはどうする? みんなで分ける?」
「んー、要らないかも。何時季の浮気の証し、愛せるようになるには時間もかかりそう。でも、彼らは何なの?」
 柳裸が小さな少年に触れる。身体を調査する。
「ん、やっぱり、何時季に似てるだけね。この子たちの身体はあの花たちの細胞だわ。形を似せただけ。光合成能力も弱いわ。いや、何時季が強すぎるのだけどね」

 庭園がざわめく。声が聞こえる。花たちの声のようだ。
「光合成能力が弱いから、その子たちは要らないの? 栄養として足りないから、その子たちは愛してあげないの?」
「違う、何時季が好きだからだ。その子たちは何時季じゃない」
「そうね、でも、何時季さんと同じ、可愛い男の子の姿よ。そして、もう少し大きくなれば、何時季さんと同じように抱きしめることができるわよ。果汁精液も出るわよ、何時季さんほどたくさんは出せないけど。」
「彼らは一人だけじゃないわ。あなたたち、何時季さんを独り占めしたいと思ったことはない? この子たちなら、一人に一人、足りるわよ」

「そうね。でも、何時季が良いの。私たちが一緒に旅してきたのは何時季よ。諦めかけてたあの時、助けてくれたのは何時季よ。彼が樹になった時、連れ戻したりもしたわ。何度も抱き合ったのも何時季なの」
「一緒に居た時間が、私たちと何時季を特別な相手にしたのよ」
「彼らとも、一緒の時間を作れば良いじゃない」

「植物としては、何時季を咲かせたいの? 森にしたいの? 私たちに何時季を諦めさせるために、この子たちを造ったの?」
「そうね。そうかもね。でも、解らないわ。何時季さんが森になったら、やっぱり連れ戻すの? 男の子の姿に戻すの?」
「ええ、そのつもり」
「何故?」
「彼と抱き合って、愛し合いたいの。性交したいのよ」
「子供なんかできないのに」
「そうね。でも、どうかしらね。何時季も私たちも、あなたたちも、改造されてるけど生き物よ。子供ができることもあるかもよ。生き物なんだから。改造された特別な身体なんだから」
「身体を変えるつもり? 彼と受精できるように」
「何時季も変われるかもよ。もちろん、そうするなら手伝うわ」

「そう、やっぱり何時季が大事なのね。当然よね。あの子たちは要らないわよね」
 庭園の花たちから、緑の触肢が迸った。それは小さな少年たちをさらう。床が開き、空が見えた。小さな少年たちは空中に投げ捨てられた。
「!」
 何時季が飛び出した。彼を捕らえていた空流と柳裸の手には薄い緑の葉が残っている。恋人たちから逃れて、何時季は空中に飛び出した。
 何時季の身体から緑の触肢が生える。空中で伸び、小さな少年たちを回収しようとする。捕まえることはできるかもしれない。でも、一緒に地上に叩きつけられるだけだ。何時季は飛べない。

「何時季!」
 晴香と帆夏が空中に飛び出す。晴香は重力制御能力で、帆夏は身体に羽根を生やして飛ぶ。
 何時季の恋人たちなら、彼と少年たちを助けてくれるだろう。でも、そう言えば良いはずだ。彼が危険に飛び込む必要は無い。
 いや、恋人たちを信じられるなら、飛び出しても良い。行動することが良いのかもしれない。言葉より早く、言葉より確かかもしれない。

 何時季の身体は緑の触肢に包まれてゆく。こうなると、彼は元の少年の姿に戻れない。でも、いつも恋人たちが戻してくれた。だから問題ない。問題ないはずだ。
 如雨露を持った少女が飛び出し、何時季の背中に降り立った。紗花だ。この空中庭園の庭師、見事な花を育てていた少女。紗花が如雨露を傾ける。水が降る。
 その水を受けて、何時季は大きく茂った。海底で会った巨大生物兵器より大きくなってゆく。もう樹ではない、森だ。森が落ちてゆく。
「何時季が大きい! 回収しきれない! 晶華、どうしよう、どうすれば……」
 晴香の重力制御能力でも支えきれない。能力の効果範囲が足りない。

 紗花が何時季の本体に触れた。目を閉じた少年は眠っているように見える。紗花が何時季に口付けする。
 巨大な森が、爆発するように花を咲かせた。葉と花びらが風を受け、ゆっくりと落ちてゆく。

☆ 狂い咲き

「晴香、帆夏、咲生逢、少し待って。この花の女の子たちと話をさせて。僕は大丈夫だ」
 花咲く緑の檻に捕らえられた何時季が、彼を助けようとする恋人たちを止める。戦えば簡単に恋人たちが勝つだろう、この花たちは駆逐されるだろう。だから止める。
「……何時季さん、少しだけですよ? この娘たちと戦ったら、あなたに嫌われそうだから待ってあげるんですからね」
「うん、ありがとう。晴香、帆夏、咲生逢、好きだよ」
「やっぱり、あの花たちと同じですね。弱くてズルいです」

「ねえ、僕も季節が過ぎたら、咲けない?」
 何時季が花たちに訊く。いや、彼女たちは花には見えない。人間の少女の身体から緑の触肢を伸ばし、檻を作って何時季を捕らえている。
「かもね」
「やっぱり、咲けないと困るの?」
「さあね? あなたは困らないかもね。でも、それで良いの? 咲かなくても枯れるのよ。枯れて塵になるのよ。乾いた塵に。それが望みなの?」
「塵になりたくないの?」
「あなたはなりたいの?」
「なりたくない。塵になるのは、死ぬってことだ。死にたくはない。生きたい」
「生きれば良いわ。私たちも生きたいわ。だから咲くの。花が生きるって、そういうことよ」

「キミたちは花だから、それで良いのだろう。可哀想だと言うのも違うのだろうな。綺麗に咲いた花たちを可哀想なんて、普通は言わない」
「可哀想なんて、散る花に対してでも失礼よ。咲けなかった蕾は少し可哀想だけど。でもその蕾でも、咲こうとしたなら、可哀想なんて言われたくないわ」
「本当に可哀想なのは、咲くことを知らない蕾や、咲くことを怖がる蕾よ。咲かなくてもどうせ枯れるのに」
「そうだね」
「何時季さん、あなた、咲かないの? 咲かずに枯れるのを待つの?」

「キミたち、あの庭にあった花なんだっけ?」
「ええ」
「じゃあ、もう咲いたんだね」
「ええ。花としては咲いたわ」
「そうか。僕は花じゃない。僕はまだ、咲いてないのかな」
「ええ、そう見えるわ。花としても、人としても」
「僕は人として咲きたい。樹に、森になりたくない。キミたちも、人として咲きたいの?」

「何時季、もういい?」
 咲生逢が苛立っている。こんな話はくだらないと思う。生きることに理由が必要なのか?
「何で、何時季を誘惑したの? そうやって閉じ込めようとするの? そんな話をするため? 話したいならそう言えば、逃げたりしないわよ」

「咲生逢さん、あなたは私たちを、狂った花と言ったわよね。たぶんその通りなのよ。だから理由なんて無いわ」
「いや、理由はあるわ。でも狂った理由よ。何時季に嫉妬してるのよ。植物としてしっかり動物を支配してる何時季に嫉妬してるのよ」
「何時季は誰も支配なんて……」
「してないの? 咲生逢、あなたは何時季に支配されてないの?」
「ええ、されてないわ! 何時季は私の大切な旦那様だけど、私が選んだのよ!」
「何時季以外の選択肢なんてあったの? いや、あっても何時季を選ぶでしょうけど」

「植物として、動物を支配したいの?」
 帆夏が訊く。
「そうねえ、そうなれたら素敵ね。でもどうなのかしらね」
「美味しい果実に、綺麗な花に、人間が支配されると思う? その果実も花も、人間が改良したモノが多いわ。支配されたのは植物の方じゃない?」
「それなら、何時季もそうよ。私たちに何時季が支配されてるのよ」
「どうかしらね。何時季は男の子だから、気付かなかったかもしれないけど、女の子なら解るんじゃない? 誘惑は支配への第一歩よね。従うこと、愛することで支配する。あなたたち、女の子なのに、何時季にそれをされてると思わない?」

「そんな何時季さんに嫉妬して、どうするのですか? それなら何故、私たちを誘惑しないで、何時季さんを誘惑したのですか?」
「そうね、何時季が可愛かったからかな。私たち、ちゃんと何時季に惹かれたのよ。植物だって他家受粉するのが普通なのよ? 性別があるものも多いのよ。何時季はズルいわよね。同じ植物の私たちも支配しようとするのよ」
「何時季さんは人間です。花じゃありません。人間に化けなきゃならなかったあなたたちみたいな花とは違います」
「そうね、でも、本当にそうなのかな?」

「僕に話させてよ! ねえ、地上に緑を増やしたいんだ、手伝ってくれない? キミたちなら、地上でも咲けない?」
「何時季さん、あなた、私たちにも頼るの? 私たちの光合成能力や耐久性は、あなたほど強くないわ。枯れたらどうしてくれるの?」
「う……できるだけ、枯らさない……いや、解らないな。僕だって水が無い場所では枯れるかもしれない。姫李佳が居るから大丈夫だけど……」
「そうね、姫李佳さんを支配したあなたなら大丈夫ね」

「ねえ、観て。咲いたわ。何時季さん、あなたの精液をもらって、咲いたわ。この子たちなら、あなたの望みを叶えてくれるかな」
 何時季を捕らえている緑の檻に、いくつもの花が咲く。その花びらの中には、小さな少年たちが居た。何時季に似ている。
「あーあ、季節を間違えた気がするんだけどな。狂ってるから、仕方ないわよね」

☆ その花の季節は

 何時季が花の美少女たちを抱く。愛し合う。彼は多くの少女たちと愛し合うことには慣れている。
 栄養として必要なくても愛されたい。ただ快楽のために射精したい。この少女たちを拒む理由は無い。
「んちゅ、ん、何時季さんの果汁、本当に美味しいわね。植物としてうらやましいわ。まあ、私たちもやろうと思えばできるけどね。あなたより美味しい果実を結べるわ。やろうと思えばね」
「でも、美味しくても、自分の果実を食べようとは思わないよね。あ、でも、紗花さんに食べさせてあげれば?」
「紗花には食べさせてるわ。ここまで美味しくしなかったけど。そうね、このくらい美味しくしてあげても良いわね」

「ん、キミたち、綺麗だ。でも、エッチは下手だな。いや、晶華たちが特別に上手なんだな。特別な能力もあるし。浮かばせてくれる晴香が居ないと、たくさんの女の子たちとはしにくいな」
「こんなに射精しておいて、下手とか言われるのはなあ。まあ、比べられる相手が悪いか。それに私たち、初めてなのよ?」
「うん、がんばってると思うよ。でも、晶華たちの方がエッチは上手だ」
「仕方ないけど、悔しいな。何時季さんは私たちに近いのに」
 それでも何時季は楽しんでいる。十分に気持ち良い。美しい少女たちが、笑顔で彼の勃起に集う。肌を接してくる。気持ち良い。

「ねえ、何時季さん、例えばお猿さんとか、犬とか猫とかが生き残ってて、食べさせる物が無くて、あなたの果汁精液が必要だったら、エッチして飲ませる?」
「いや、できないと思う。オナニーして出して飲ませるよ」
「そうよね。でも、その動物たちがあなたに感謝して、がんばって人間の女の子に変身して誘惑したら、受け入れるわよね」
「うん、たぶん……」
「花は様々な形のものがあるわ。あなた、何の花が好き?」
「みんな好きだ。薔薇も桜も、かすみ草も……綺麗に咲いた花が好き」
「私たちは? 人間の女の子の形に咲いた花、好き?」
「好きだ。でも、花には見えない」
「んふ、そうね。花に見えないはず。でも、花よ。何時季さん、あなたもそうよ。人間の男の子に見えるけど、違うわ。あなたは樹。美味しい果汁を搾られる樹」
「薔薇と桜だって、犬と猫くらい違うわ。植物としての私たちとあなたも違うわ。でも今、私たちもあなたも、人間の姿。だからエッチできるわ。化けてるだけだけど」

「そう、人間に化ければ良いのよ。愛し合うために。花も樹も、魚も兵器も、人間に化ければ良いのよ」
「砂花菜たちは魚、晶華たちは兵器? 僕は樹で、キミたちは花……みんな、人間のふりをしてるだけなのかな」
「そうよ。だから、あなたも何も気にしなくて良いの。私たちでも、晶華さんたちでも、人間に化けた女の子を愛して、抱けば良いの」

「違うわ。何時季、あなたは人間よ。私たちも」
 扉が開き、晴香と咲生逢が現れた。隠れて見守ることが嫌になった。
「何時季を返して。邪魔するなら容赦しないわよ」
 咲生逢がベッドの上を駆けて来る。晴香が飛んで来る。二人の前に如雨露を持った少女が立った。紗花だ。
「容赦しないって言ったわよね」
 咲生逢が紗花を突き飛ばそうとする。その手が寸前で止まった。緑の触肢に巻き付かれている。
 紗花が如雨露を傾けた。裸の少女たちが水を浴びる。その身体から緑の触肢が芽吹き、辺りを覆ってゆく。晴香も絡まれる。

「乱暴しないで!」
 何時季が叫ぶ。
「あら、先に襲って来たのはこの娘たちだけど」
「咲生逢、晴香、おとなしくして。暴れないで」
「嫌です。私たち、何時季さんの部下じゃありません。命令を聞く必要はありません」

「命令じゃない、お願いだよ! 何で、乱暴しようとするの?」
「何時季さんを助けようとしたんです」
「助けられることなんて……」
「そうですね、間違えました。何時季さんを奪い返そうとしたんです」

 何時季が晴香に唇を寄せる。キスする。
「そうだね、ごめんね、ありがとう。この花の女の子たちが、僕をキミたちから引き離したんだ」
「ねえ、キミたち、晴香や咲生逢、晶華たちを怒らせたいの? 戦いたいの? このままじゃ、戦いになるよ」
「そうかもね。何時季さん、あなたはもちろん、晶華さんたちを選ぶわよね。戦いが起こって、私たちは負けて、あなたは恋人たちに助けられるのよ。そして、お礼としてたくさんエッチするのよね。楽しみでしょ?」
「解らない、何で戦いたいの? 多真は、強くて奪えるから我慢できないと言ってた。キミたちもそうなの?」
「晶華さんたちの方が強いわよ」
「じゃあ、何で? 消えたいの?」

「咲きたいんですよ」
 紗花が答えた。
「咲けば良いよ。何で戦いたがるの? いや、もしかして、咲くってそういうことなの? キミたちも兵器なの?」
「戦いたいんじゃないわ。咲きたいの。此処から出たいのよ。蕾から解放されたいの」
「え? あ……咲くって、そのことなの? 解放されたいの?」
「さあね。違うかもね。でも、蕾から咲く、それは当たり前じゃない」

「でも、咲いたら、いつか散るんだ。散るか萎むか……」
「散りたくなければ、咲かない? 萎みたくなければ、咲かなければ良いのかもね。でも、あなたが花だったら、そうしたい?」

「花は樹や草の一部に過ぎない。僕が花を付けたとしても……その花が萎んでも、僕は枯れない。キミたちは……」
「あなたは樹。私たちは花よ。やっぱり、解りあえないわよね」

「解らなくて良いのよ。何時季、こんな狂った花たちのことなんて解らなくて良いのよ」
 咲生逢が触肢の拘束を抜けた。一瞬、四肢が切断され、拘束を抜けてまた復元した。身体切断のための機能は彼女のドレスに仕込まれている。そのドレスも復元する。
「咲生逢、あなたは狂ってないの? そんな身体で、狂わずにいられたの?」
「狂ったわ。何時季を食べようとしたわ」
「それは普通のことよ。彼は美味しい果実だもの」

「何時季のこと、あなたたちは樹と言ってたわ。今度は果実? 都合良く変えないで」
 晴香を拘束していた触肢が切断された。擬態していた帆夏が現れ、髪を伸ばして触肢を切断した。

「あなたは帆夏さんだっけ。あなたの身体は、都合良く変われるのにね」
 花の少女たちが集まる。緑の触肢が絡まり合う。何時季が囚われる。

「人間に化けるのは止めるのね。それで咲けるの? それとも、もう咲き終わったの? 後は萎むだけよね。そんなの、嫌よね」
「萎むのは嫌だけど、仕方ないわ。そんなことで、咲くことを止めないわ」
「仕方ないのよ、花なんだから。花びらが散って邪魔でしょうけど、花自身はどうしようもないわ。その時はもう、散っているのだから。そんなことより、咲きたいの」

「ねえ、何時季、あなたは何時、咲くつもり? 咲かずに枯れるのを待つの? まあ、あなたの自由だけどね。でもね、咲きたいと思っても、咲けないかもよ。季節を過ぎたら」
 何時季を閉じ込めた緑の檻が、蕾を付け始めた。

☆ 誘惑する花たち

「晴香! 何時季の行方は?」
 何時季と紗花が花びらに包まれて消えた。追いかけなければと空流は思う。大事な恋人を、栄養を奪い返さなくては。
「ここから下、空中建造物の内部ですね」
「行こう、道を造るよ」
「待って、空流、消さないで。この建造物や花を消さないで」
「晶華、どうして?」
「何時季が人質になってるのよ。今のところ危害を加えることはなさそうだけど、花の心は解らないわ。怒らせない方が良いわ」
「僕も怒ってるよ!」
「落ち着いて。作戦行動に入るわよ。感情を制御して」
 晶華の精神感応能力が空流を落ち着かせる。

「柳裸、此処の花たちと神経接続できる?」
「ん、やってみる。んあっ、難しい……この花たちも生体コントロール能力が強いわ。それに何て言うか、異質なモノを探る難しさ。何時季とはまた違う、強力な植物体だわ。この花たちをコントロールするのは難しいわ」
「この花たち、多くの存在なの? 一つにまとまってる?」
「多くの存在だけど、チームとしてまとまってる。リーダーは居るみたい」
「花のリーダーと話したいな。私も手伝うわ」

「晶華、何時季はどうなる? 心配だ、追いかけよう」
「晴香、帆夏、咲生逢、隠密行動で何時季を探して見守って。空流と練佳は私たちを護ってて。姫李佳ちゃん、憧姫の毒をしっかり浄化してね」

「こんな花園、空流や憧姫なら簡単に消したり枯れさせたりできるわよね。でも、しないわよね。何時季が悲しむもんね」
「ええ。でも、何時季のためだけじゃないわ。せっかく残ってた、こんな見事な花園。もったいないわよ」
「そうね、綺麗ね。憎らしいくらい。晶華、行って来るわ」
 帆夏が地面に溶けるように消えた。変形し隙間に潜み、色や模様も偽造する。完璧な迷彩だ。

「咲生逢、行くわよ」
「ええ、晴香、よろしく」
 晴香と咲生逢が建物の入口に飛んで行く。触れていないのに開いた。晴香の重力操作能力だ。質量のある物体の移動を操ることができる。動かせる。
「何時季の匂いがする。晴香、場所は解る?」
 咲生逢の感覚は鋭い。復元能力だけでなく、身体能力も強化されている。
「ええ、何時季の重さが解るわ。咲生逢、もし私が暴走しそうになったら、止めてね」
「ええ。私もね。あの花、気に入らないわよね。綺麗だけど」
「何時季は男の子よ。人間の男性よ。植物の能力を持っていたとしても、花じゃないわ。私たちを選んだ男の子よ。花なんかに渡さないわ」

 何時季は広い部屋に連れ込まれていた。花びらに包まれた時、甘い香りに思考が痺れた。気がついたら、豪華なベッドに寝ていた。
「おはよう、何時季」
 裸の少女たちに囲まれている。添い寝されている。何時季自身も裸にされている。触れ合う肌が心地良い。
 甘い香り。花の香りだ。少女たちは優しく微笑んでいる。美しい少女たちだ。
「キミたちは……花? あの花なの?」
「ええ。あなたに合わせて身体を造ったの」
「そうか。でも、何で僕を捕まえたの? 僕が造る栄養が必要なわけでもないよね」
「解らない? 足りないモノ」
「愛が足りないの? 多真や砂花菜さんはそうだったな」
 美少女たちが笑った。
「愛してくれるの? あなたをさらった私たちを愛してくれるの?」
「愛し合うなら、互いを大事にしなきゃ。解放して」
「まだダメよ。でも何時季さん、あなたのこと縛り付けてもいないのにね。まあ、あなた、一人じゃ私たちに敵わないわよね」
「晶華たちは? 晶華たちと話したい。キミたち危険だよ、晶華たちは強いよ、怒らせたら危険だ。会わせて」
「そうね、晶華さんたち強いわね。戦争のためのテクノロジーの結晶。私たちが敵うわけ無いわ。でも、晶華さんたちは優しいわ。弱い私たちを消せるかしら? 会わせても良いわ。でも、その前に」

「何時季さん、あなた、弱いわね。あなたは晶華さんたちが居なければ、私たちにも敵わない。弱いわ。だから助けられた、大事にされたのよね」
「植物として、正しいやり方のひとつよ。傷つける棘より綺麗な花。食べられない毒より美味しい果汁。護られるわ、大事にされるわ」
「もしかして、キミたち、晶華たちが欲しいの? 僕が邪魔なの?」
「さあ、どうかしら? あなたを避ける理由、あると思う? 何時季さんも晶華さんたちも私たちも、みんな仲良くすれば良いんじゃない?」
「じゃあ、そうしようよ。解放してよ。晶華たちに会わせてよ」

 何時季の男性器は勃起している。裸の美少女たちの肌を感じている、収まるわけがない。
 砂花菜のたくさんの娘たち、全員に飲ませたこともある。あの時は少し辛かった。でも、出さずに我慢することも辛い。連続で何百回と射精し続けることができた精力なのだ。

「んふっ」
 花の美少女の一人が肉棒に息を吹きかけてきた。何時季は射精しそうになり、あわてて耐える。
「辛そうね。何で我慢するの? 私たちに手を出さないの? あなたを裸にして、私たちも裸で。誘惑されてると思わない?」
「誘惑してるの? 僕のオチン×ンが欲しいの?」
「さあね? でも、晶華さんたちは欲しがるわよね。生きるためだけじゃない、何時季さんみたいな可愛い男の子のオチン×ン、欲しがるわよ。ねえ、私たち、みんな女なの。あなたは男。栄養として必要じゃなくても、誘惑すると思わない?」

「どうなの? 欲しいの? 僕のオチン×ン、キミたちに入れて良いの?」
「さあ? どうかしら? そんなこと、女の子に言わせたいの? 私たちを楽しみたいなら、欲しいって言えば? ねえ、私たちにオチン×ン入れたい? 咥えさせたい? オマ×コの内部の感触、オチン×ンで感じたい?」
「う……」
 何時季は我慢している。迷っている。
 この美少女たちに手を出しても、晶華たちは赦してくれるはずだ。何時季を誘惑するのは自由だ、強要もしていない。この少女たちも、晶華たちが決めたルールを破っていない。
 でも、この美少女たちは性愛の快楽を求めているわけでもないようだ。何時季が求め、浮気する、それを誘っている。

 浮気? 確かに浮気だ。晶華たちは何時季の恋人だ。でも、いつも浮気を赦してくれる。一人だけの恋人でもない。砂花菜やリナも抱いた、この美少女たちを抱くことは、何が違うのだろう?
 この花の少女たちは、お腹を空かせてはいない。でも、そのことにこだわり過ぎることはダメだ。自分が愛されるには、相手のお腹を空かせておかなければならない、そうなってしまう。それはダメだ。

 リナたちを受け入れた時にも考えたこと。相手が可愛い女の子だから抱きたい。相手が飢えていては、そんな余裕も無いだろう。だから飲ませて、満たしてから抱く、愛される。
 こんな自分は、飢えを満たす必要が無い少女にも愛されるのだろうか? そういうこともあるはずだ。でも、たくさんの恋人を連れた自分を、栄養が足りている少女が誘惑する、その真意は?

「んふ、何時季さん、意外とがんばるのね。良いわ、ねえ、嫌なら抵抗しなさい。逃げなさい。逃げないなら、あなたも望んだのよ」
 勃起に頬ずりされる。なんとか射精は我慢した。先端に唇が触れる。舌の感触を感じた瞬間、何時季は自分から突き込んでいた。

☆ 咲きたい花たちの園

「こんにちは」
 何時季の挨拶に如雨露を持った少女が応えた。
「こんにちは、僕は何時季。あなたは?」
「紗花(さやか)と言います」
「紗花さんは食べ物に困って……ないかな。ここには水も植物も十分にあるみたいだね」
 紗花の身体は栄養不足には見えない。

「ええ、でも、何時季さんみたいに美味しそうな植物はなかなか居ません。地上から来られたのですか?」
「うん。此処には紗花さんしか居ないの?」
「いいえ。この花たちが居ます」
 紗花は庭園の花々を示す。如雨露を傾け、水やりを始めた。

「こんにちは、私は晶華。私たちは何時季に救われたの。彼の果汁を飲ませてもらって生きているわ」
「そうですか」
「地上には生物はとても少なくなって、なかなか見つからなくなってるわ。植物も動物も人間も居なくなった。私たちは生き残ってる人を探して来たの」
「そうですか」
「紗花さんはずっと此処で花の世話をしてたの? 他に誰か、何か生き残ってたりする? 知らない?」
「この花たちが生き残っています」

「地上はほとんど砂漠になってるみたいよ。この花たちも、砂漠になった地上じゃ生きられないよね。紗花さんはこの花たちが好きなのね。そうよね、綺麗ね」
 姫李佳はどこか不安だ。此処にも水は豊富にあるようだ。水を生成する自分の役割が不要だ。
 でも考えてみれば、水が無い場所では誰も居ないだろう。誰か居るなら水もあるだろう。当然だ、自分たちは生きている誰かを探しているのだ。

「紗花さん、寂しくなかった? 私は鎖につながれて、ずっとお腹が空いてた。だから、寂しいとか考える余裕も無かったわ。何時季に助けられて、美味しい果汁を飲ませてもらって、お腹いっぱいになって、何時季もみんなも居て、寂しさはやっぱり無かったわ。紗花さんはお腹が空いてるようには見えないわ。でも、寂しくなかった?」

「寂しくなくちゃいけないんですか?」
 紗花が微笑む。彼女の水やりは続いている。不思議な如雨露だ、水が尽きない。
 姫李佳が水を生成できるように、あの如雨露も水が尽きないのかもしれない。失われたテクノロジーだが、姫李佳だけとは限らない。あの如雨露と太陽の光があれば、この庭園に緑は尽きないのかもしれない。

「私はこの花たちと一緒でした。寂しいと思いますか?」
「解らない。でも、紗花さんは寂しそうにも見えます。この空中庭園で、ずっと花たちの世話をしてたのですか? 誰も来なかった?」
 晴香が訊く。晴香のように空を飛べなければ、此処には来られないだろうけど。
「ええ、ずっと、誰も来ませんでした」
「あの戦争で、どうやって此処は残ったのですか? こんな戦闘用とは思えない空中建造物が、何故残れたのですか? 此処に居るのは紗花さんだけなのですか?」

「私は花を育てるために造られた生体ロボットなんです。この空中庭園が残った理由は知りません。たぶん、もともと人が居なかったから、標的にされなかったのでしょう。運良く戦闘に巻き込まれたりもしないで、消えなかったのでしょう」
「そうですか。紗花さんを造った人たちは、此処には居ないのですね」
「居ますよ」
「何処に?」
 紗花は微笑んで花園を示す。

「花? そうか、花が意識を持って……人間だったのか、それとも進化したのか……いや、植物の意識のこと、知られてなかっただけなのかも。この花たちが紗花さんを造ったの?」
「ええ。何時季さん、あなたも植物ですよね。解ります。歓迎しますよ。ここは雲の上にも、下にも行けます。太陽も雨も望みのままですよ」

「うん、ここは植物のためには良い場所だね。紗花さんも居るし。でも、僕は地上で……」
 何時季は口ごもる。地上で緑を増やす、そう言いかけた。でも、それはしないつもりだったはずだ。樹になれば緑を増やせるけど、それはしたくないと思っている。
「僕は、地上で緑を増やす方法を探すよ」

「何時季さんならできるでしょう。樹に、森になれるはず。あなたなら、砂漠に負けない樹になれるでしょう。何時季さんのように強い植物は初めて見ました」
「うん、でも、それはしたくない。樹になってしまうと、この姿に戻れないから」
「その男の子の姿が必要なんですね。解ります。花たちも私を、このような女の子の姿に造りましたから」

「紗花さんは花たちと話せるの? 言葉じゃなくても良い。分かり合えるの?」
「半分ですね。こうして話すように分かり合えます。でも、話してくれないこともあるかもしれません。いえ、たぶんあるでしょう」
「此処の花たちには、何か夢はある? やりたいことはあるの?」
「ええ。花は咲きたいと。だから私を造ってくれました」

「咲きたい? 花が、咲きたいって……当然だけど……咲いてどうするの? 何を誘うの?」
 帆夏が訊く。美しい金髪がざわめく。帆夏は美しい。その姿は自在に変えられるけど、帆夏の通常の姿は美しい。当然だ、美しくもなれる、それならばそうする。

「花は咲くだけですよ。誰も観ていなくても、咲きます。でも、皆さん、来てくれましたね」
 少し強い風が吹き抜け、花びらが舞った。桜だ。いつの間にか満開になっていた。薔薇の花びらも舞う。どちらも多くの人間たちに愛でられた、美しい花だ。

「皆さんが来てくれたから、みんな咲こうとしてますね。やっぱり、観て欲しかったんですね」
 風が吹く。大量の花びらが舞う。視界が遮られる。何時季と紗花の姿が見えなくなる。
「何時季!」
 空流の消滅光が迸り、花びらが消える。
 何時季と紗花の姿も消えていた。